"『前へ、前へ、果てしなく前へ』ジョナスは例のフレーズをまた言った。(中略)今その言葉は、忌まわしい響きをともなっていた。ジョナスにはわかっていた。要するに、何も変わらないということなのだ。"1993年に発刊され全世界1,000万部のベストセラーとなった近未来小説の本書は、記憶の大切さ、世界の豊かさを教えてくれます。個人的には、別に読書会を主宰している方から本書を熱烈に紹介されて手にとったのですが。人生の全て。天候や人間の感情や家族の在り方まで管理された【幸せな？世界】大きな災厄や犯罪など起こらず、平穏に人生を送ることができる代わりに【色彩を失った世界】で、過去からの記憶を得た事で悩み葛藤し"あるものを凝視するんだ...そしてその一瞬を待つ"と行動し始める主人公の姿には共感できました。また長らくの絶版から国内の有志により再出版されたエピソードがあったり、2016年にはハリウッドで映画化もされたらしいのですが。確かに多くの人に支持されるのも納得の魅力ある作品。シリーズの最終巻まで読みたくなりました。ディストピア近未来SF好きに、あるいは映画『ベルリン・天使の歌』好きな誰かにオススメ。

素敵。

全てが、（天候や人間の感情や家族の在り方まで）管理されている幸せな？世界。大きな災厄や犯罪など起こらず、平穏に人生を送ることができる。少しの疑問がわいたとしても、なかったことにすればいいのだ。しかし12歳の主人公ジョナスは、「レシーヴァー」に選ばれたことで、この世界の嘘を知ってしまう。このコミュニティでたった一人のレシーヴァーに選ばれてしまうのだ。先代のレシーヴァーから訓練を受ければ受けるほど、今の世界が欺瞞と嘘と偽善でできているようにかんじてしまう。よくあるＳＦもののようだが、この話のいいところは、思春期を象徴する物語だということだ。わたしも子どもの頃は周囲の大人の言うことを、なにも考えず正しいことだと、思ってきた。辛いことでも「あなたのためだ」といわれれば、そうなんだと我慢してきた。それが、いつしか色あせて、大人の欺瞞や偽善が透けて見えるようになったとき、世の中に失望もした。それを語れる友人も大人もいなかったから孤独だった。ジョナスには同じ苦しみを味わった先代のレシーヴァーがいて、お互いを信頼し、この世界を変えることを二人で考えるようになる。ラストは、彼がどうなったのかわからない終わり方だが、ジョナスは物理的に死ぬことより今のまま心が死んでしまうことを怖れて、コミュニティを飛び出していった。思春期の子の心のありよう、純粋さがよく考えて書いてあると思った。もし、これを思春期に読んでいたら、わたしの人生も少しは変わっていたかもしれない。それとも、真意がわからず、冒険もののように読んでしまっていただろうか。とにかく読んでよかった。あとに続く3作も楽しみだ。

『ギバー　記憶を注ぐ者』を読みました。しかも一ヶ月で２度も。初めは9月中旬に渋谷で『ギバー　記憶を注ぐ者』の映画を観たのがきっかけでした。迫力ある展開をもう一度味わいたかったのと、なんでこのコミュニティが存在するのか、その背景をもっと知りたくて。アマゾンで注文して本を手に取りました。その後は…『ギバー　記憶を注ぐ者』の本→『ギャザリングブルー』→『メッセンジャー』★→再び『ギバー　記憶を注ぐ者』の本と。。展開に乗っかって（飲み込まれて？）たった一ヶ月で、『ギバー』を二度も読んでしまいました。何がそんなに自分の心にヒットしたのか。自分の心の中に描いたギバーの世界と、今の仕事、今の教育、今の世の中の問題点とぴったりと（恐ろしいくらい）重なったからかもしれません。衝撃だったのは。。「すべてが同じなのならば、選択のしようがないですよ！ぼくは朝起きて、どうするか決めたいんです！」ジョナスのふりしぼられた叫び。これって教室の中にいる子ども達の声なのかもしれません。同一化された、予測可能なギバーの世界に起こっていることは、正解をあてっこする授業そのもののように感じます。与えられたものを与えられた通りにこなすだけ。ジョナスのような声が上がらないよう、つつがなく授業をずっと行っていたとしたら、子どもは同一化に向かうだけ。会社も学校も同様で、誰かが決めた事を押しつけれられてそれをこなすことに必死になっていたら。。やっておくことが無難、ことなかれ的、意味や価値を感じない。自己有能感やモチベーションが高まる瞬間ってどうやってつくっていったらいいのでしょう？ジョナスの父が双子の一方を解放した後はとっても辛かったです。ジョナスの高ぶる感情のあとのギバーの言葉もぐさりときました。「かれらは何も知らないのだから」「与えられた人生なのだから」疑いもせずに平気で過ごせてしまうことほど恐ろしいことはない。そう感じました。その後、ジョナスがコミュニティを飛び出したあとの展開ですが、ここのページ数ってそんなにありません。でも。読んでも読んでも先に進まない。そんな不思議な感覚を味わいました。色鮮やかな一つ一つの風景の美しさ。花のにおい、水の冷たさ。凍えながら記憶をもとに体を温める感覚、やっと手にしたジャガイモ。泣きやまないゲイブの声。自分自身もジョナスといつの間にか一体化していたんですね。同一化の世界を飛び出し、じっくり新鮮さを味わう内的な時間を楽んでいたのかもしれません。改めてふり返ってみると、この本を通して・問うこと（当たり前を疑うこと）・選択すること・勇気を持って行動すること・愛を分かち合うことってどういうことなのか？を問われたように感じます。これらの問いは、過去にもどこかでなんとなく考えいたと思います。が、この物語を通して、強く鮮明に頭の中に残ったように感じます★★。★『ギャザリングブルー』『メッセンジャー』も読み終えて。なんでマティは自分自身をトレードしなくてはいけなかったのか。もやもやしています。今後の展開がとっても気になります。★★最初の１点目は最近読んでいる『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問づくり」』(新評論 ダン・ロスティン,ルース・サンタナ/吉田新一郎訳)にもつながりますし、あとの３点はポジティブに生きていく上で欠かせない要素かもしれません。

管理された社会を描いた小説ですが、ジョージ・オーウェルの１９８４とは違ってソフトなタッチで記述されています。しかし、「解放」の意味の残酷さなどは、そのようなソフトな記述から異様に浮き立つ気持ち悪さというか、冷酷さを感じました。また、「勇気」あるとされた主人公ジョナスが、向こう側の世界に脱出を試みるがその最期がまるで報われないような結末（管理社会がそれで変わるのなら話は別だが）は、無力感さえ感じます。ジョナスに記憶を注ぐ旧レシーバー（現ギヴァー）の下では過去に一度レシーバーの候補者が現れたが失敗したという経緯があり、結末ではジョナス自身もレシーバー候補者としては二度目の失敗例に終わったわけで、結局は、ギヴァーの保身のために次々とレシーバー候補者が葬られていくということではないか？そうだとすれば、何ともいえない虚しさも感じてしまう。結局、管理社会は強大すぎて太刀打ちできないということを教えてくれているようで、この本はそれを言いたかったのだろうか。

　この本の持つ不思議な魅力にとても引き込まれました。特に、後半ジョナスがレシーバーとしての訓練を受けるあたりからは一気に読んでしまいました。最も印象に残ったのは、最後の一文でした。どう考えたらいいのだろう？と思いました。ジョナスとゲイブリエルの死を意味するのでしょうか。　ジョナスが、コミュニティを抜け出したのは、ゲイブリエルを解放（殺される）ことから守るためだったのに。あるいは、本当の「解放」を意味したものか。　「同一化」の意味が物語を読みながらだんだんわかってきて、戦慄を覚えました。　「記憶」の中には、色彩や感覚だけでなく、人としての経験や何よりも感情も入っていたことも。　ジョナスの行為は、すべての人の「同一化」からの「解放」だったということなのでしょうか。　読んだ後で、誰かと語り合いたくなる本です。

　ぼくらは大事ななにかを忘れてしまったのかもしれない。愛も、憎しみも、喜びも、なにもかも、古臭い、前時代的な言葉にしか響かない。　　けど、人間の世界は、いろいろな色があるから美しい。いろいろな感情があるから美しい。古い記憶を呼び覚ますには、相応のリスクが伴う。それでもぼくらは思い出す必要がある。　　　ストーリーとしては、近未来SFにはよくあるディストピア的な設定だけど、伝えようとしてる核心みたいなものは、純粋な愛や、勇気や、祈りだと思う。　　多様性や人間的な感情が排除された世界で、古い記憶を思い出してしまった主人公ジョナスがとった行動は・・。こういう作品にこどものうちから触れておくと、すごくいい栄養になると思う。　　　

ジョナスがゲイブと最後にたどり着いてのは、というかたどり着けなかったのかもと感じた。ジョナスが求めた色や愛、痛みの結果、それらを感じる旅になったと思う。

原著がなかなか読みきれず、日本語で読みたいと思い購入。４部作、全て邦訳して欲しい。